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2022/01/08 05:49


カメラを肩にバスに乗り込みます

乗客は私ひとり

走り出した車内に
「失礼ですけど」
と声が響きました

運転手がマイクをONのまま話しかけているのです

「なにを撮ってらっしゃるんですか?」
運行に関係ない会話は服務規定違反じゃないかな
と案じつつ、一方で
子どものころへと
回想シーンに誘われるかのようなたのしさも感じます

「虫を撮ってます」
「わぁ、素敵ですね。でも今の季節、いないでしょう?」
「それがたった今チョウを撮ったところ」
運転手はもう一度「わぁ」と声を響かせました



この日、12月25日の午前中
神社の境内に入り
草木の中に越冬する虫を探していました

と、本殿横に上がる石段に
枯葉が一枚落ちるのが目にとまったのです

ただ、落下の様子が直線的でどこか不自然
もしやと近寄ったところ小さなチョウでした



チョウは体を温めるつもりか
立てた翅をゆっくり開いていきます

焦げ茶一色に見えた翅表から
深いムラサキ色が
薄い日差しに浮かびあがってきました

シジミチョウの一種
ムラサキツバメでした



マイク越しに
「カールツァイスのレンズにカビを着けてしまったんです」と
ほろ苦い思い出を語りながら運転手は
停留所にバスを着けました

「どうも」
ニモカを料金箱に当てた私は
笑みを返してバスを見送りました

肩から提げたカメラには
クリスマスプレゼントの
ムラサキツバメが入っています