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2022/04/13 10:34


日田シネマテーク・リベルテというミニシアターにて、イラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミ監督の『オリーブの林をぬけて』(1994)を鑑賞した。『友だちのうちはどこ?』(1987)に始まる3部作の2作目で一応ラブストーリーなのだが、閉鎖的な時代とお国柄につき、キャピキャピした自由な恋愛とは程遠い。頑として振り向かない女性に対し、男性が自分の気持ちを訴え続ける粘りのプロポーズは、小学生の頃を思い出すほどに、たどたどしくて甘酸っぱい。


劇的な展開はない。こむずかしい理屈もない。しかし、人間というものの本質をついた台詞にたびたびハッとさせられる。「僕がお茶をいれたり、君がお茶をいれたり。人生ってそういうものだろ?」もそう。『人生』を『結婚』に入れ替えてもいい。誰かと誰かが出会い、一緒にお茶をすする。そんな何気ない積み重ねが日々となり、いつしか一生のハイライトにもなり得るのだ。

 

 未経験のまま26歳でライターの名刺を作り、仕事を通して技術を学んだ野良猫タイプの私は、32歳の頃に喫茶店や珈琲というテーマにいきついた。といっても、下を向いて歩いていたら、ぶつかったという方が正しい。運が良かった。最初は、昭和の忘れ形見のような喫茶空間や風変わりな店主を怖いもの見たさで観察するのに夢中で、珈琲などそっちのけであった。


けれど、安いブレンドを一気飲みするだけだった取材態度を一変させた人物がいる。『手の間』でもおなじみの「珈琲美美」店主、森光宗男さんだ。自家焙煎店とそうでない店の違いにすら無関心だった私に、森光さんは訥々と珈琲の話をしてくれた。偉ぶることもなく、必要以上に理解を求めるでもなく、飄々と楽しげに、そしていつだって愚直に。森光さんはキアロスタミ監督が描く登場人物のごとく言葉こそ少ないが、珈琲に生きる姿を惜しみなくさらけだしてくれた。

 

これから珈琲のこと、喫茶のこと、その他、遅咲きドライバーの話、上京喫茶取材のことなど思いつくままに綴っていきますね。